水没ワンダーランド
「寧ろ、ンなことはどうでもいい!なんだよアレ!?あんな化物いるなんて聞いてねえよっ」



チェシャ猫やクイーンが住んでいる場所なのだから、ある程度奇抜な住人たちのことは予想していたけれど。


あんな、あからさまな化物がいるなんて。

しかも、なぜか那智たちを追ってくる。



「うん、そうだねー。言うの忘れてた」


「忘れんな!」


「でも、この猫さんが助けてくれないと絶対に私たち死んでましたよね」



女の子が、チェシャ猫を見上げてニコリと微笑む。
どうやらこの子は、グロテスクな風貌のチェシャ猫のことが怖くないらしい。



それどころか敬意を抱いているらしく、なぜだかとても丁寧にお辞儀をしていた。



チェシャ猫も腰を直角に折り曲げ、かなり不自然な動作でお辞儀を返す。

その際に重い頭部が取れそうなほどグラグラとふらつき、猫の代わりに那智が焦った。



「そうだよー。首ちょんぱされるとこだったよ」



「そういうことは最初に言え!!この糞猫」


「ひどいー」


「そうですよ!ひどいですよ、那智さん!」


「ひどくない!」



それに、那智は口にはしなかったが。


もう一つだけ、那智には奇妙な違和感があった。



初めにクイーンやチェシャ猫を見たとき、不気味だとは思ったけれど「異世界からきた」と言われたとき、真っ先に非現実的な内容に打ちのめされたが心のどこかでひどく納得していたのを覚えている。




けれど、今の骸骨ケンタウロスを見たときは違った。


直感的に那智の全身を駆け抜けた恐怖と違和感。


二人よりも別段飛びぬけたグロテスクな外見だったせいもあるが、それとは微妙にニュアンスが違う。



何かが、違うと思ったのだ。その何かは具体的にはわからないが。




その違和感の正体を、このときの那智は、まだ知ることができなかった。



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