水没ワンダーランド
分かっている限りでも90名もの人間が
すでにこの世界に、紛れこんでいるのだ。
世界と異世界との拒否反応のせいで
確実に身体と精神を蝕まれながら、
われを忘れ化け物になり果てようとしている。
こうしている、今も、この世界のどこかで。
それは、世界の崩壊や異世界の干渉という、言葉は大層だがなんとなくピンとこない説明よりもストレートに那智に危機感と恐怖を与えた。
大勢の人間の命が天秤にかけられているのだ。
「……っ、どうすんだよ!このままじゃ全員……」
那智はチェシャ猫に掴みかかる。
一刻も早くどうにかしなければいけない。分かっている。分かってはいるけれど、どうすればいいのか分からない。
そもそも、なぜ自分だけが無事なんだ?
なぜ異変に侵されなかったんだ?
那智はパニックに陥っていた。
しかし猫は、息を荒げる那智の肩をやんわりと押し返し、落ち着き払った口調で言う。
最も、彼はこの能天気な喋り方しかできないようだが。