水没ワンダーランド
「ははあ、もしやあなたが今回雇用された方ですか」
「雇用…?」
「ようこそ、メアリ・アン!ただし20日と21時間の遅刻ですよ!」
ドードー鳥は胸から古びた懐中時計を出してフウと鼻息を吐いた。
どうやら、スージーを新しい使用人のメアリ・アンだと思い込んでいるらしい。
「だからっ!私はスージーです!使用人になった覚えもありません!」
「ようこそ、メアリ・アン!ようこそ!ようこそ!」
ドードー鳥はバタバタと羽毛を散らせながらスージーの背中を無理矢理押していく。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
スージーはすがるようにチェシャ猫を見るが、彼はゴロゴロと喉を鳴らしながらつっ立っているだけで。
まるで事の成り行きを楽しんでいるかのように。
ついにスージーは部屋の外へと押し出され、段差につまずき廊下へと放り出されるように転ぶ。
「…っうわ!」
廊下の床も絨毯だったおかげで痛みはさほど無いが、あまりにも乱暴な扱いにスージーは顔をしかめた。
「酷いじゃないですか!私はただ人を探してて…」
「さっさと持ち場につきなさい、メアリ・アン」
吐き捨てるように言われて、スージーの目と鼻の先でドアが勢いよく閉められる。
「……失礼なっ!」
スージーはドアに向かって消え入るような叫びを上げるが返事はない。
ドードー鳥は結局のところ最後までスージーをメアリ・アンだと思い込んだままだった。