水没ワンダーランド
「私、そんなにメアリ・アンとかいう人と似てるんでしょうか…」
「いや、似てないと思うよ」
転んだまま膝をつくスージーに、猫が手を差し伸べる。
「そうなんですか?……って、猫さんいつのまに出てきたんですかっ…」
「あのドードー鳥はもう目が見えていない」
盲目。
そういえば彼の大きな黒目はやけに濁っていたような気がする。
「あれは義眼だよ」
鳥用の義眼があるのだろうか。
いや、おおよその体形は人間なのだから不可能なわけじゃないとは思うけれど。
スージーはチェシャ猫の手をとり、のろのろと起き上がる。
「誰だろうね。ドードーの目をえぐりとったのは」
「えぐり…っ…!?な、なんでそんな怖いこと考えるんですか!」
「…えー」
「病気や怪我かもしれないでしょう?……さ、行きましょう!こうなったら私たちだけで那智さんを探さないと」
スージーは途方もなく長い廊下を歩き始める。
チェシャ猫はしばしその場にたたずんで、自分の左手をじっと見つめる。
「……猫さん?行きますよー」
「はーい」
チェシャ猫は二度三度、手をパタパタと遊ばせて、スージーの後を追って歩いた。
彼の指には鉄臭い、ドス黒い血がべったりと付着していた。
それはさきほど、ドードー鳥をやんわりと押し退けるために、彼に触れた際についたものだった。