あの日、言いたかったこと。

その様子を見て……俺と悠斗は言葉を失う。

それでも杏は無理に笑いながら口を開く。


「も、もう……やだなー……。
杏って可愛く呼んでよー、ヒナ君ったら……ははっ……」

「杏……」

「さーてと!
ゴミ捨ててこなきゃ!」


杏は明るい口調でそう言う。

でも……その表情はどこか寂しげだった。


「……杏奈」


今度は……悠斗がそう呼ぶ。


「ユウ君、だから……」


……無理をしてる。

杏は……自分の気持ちを押し殺してる……。


「……杏奈」


……俺も……もう一度口にする。


「やめて……」

「……………。
………………杏奈」

「やめてってば……」

「杏……」

「やめてっ!!」


……杏は耳を塞ぎながらしゃがみこんでしまった。
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