社内恋愛のススメ



カツカツ。


私の履くヒールの音だけが、薄暗い社内を闊歩する。



節電の影響で、社内は外と同じ様にほんのり暗い。

非常灯の緑色の明かりだけが、不気味に廊下を照らす。


まだ、残っている社員が他にもいるのだろう。

全ての明かりが消されている訳ではなく、遠くからぼんやりとしたほのかな明かりが垣間見える。


定時を過ぎた社内に人は少なく、誰ともすれ違いすらしない。



(結婚、か………。)


薄暗い社内を歩く中、思い出すのは長友くんの言葉。




「俺は、結婚………したいけどね。」


私にそう言った、長友くん。


その横顔は憂いを帯びていて、どことなく切なそうだった。



私の知らない顔。

会社では見ることがない、長友くんの別の一面。


長友くんとは付き合いは長いけど、全部知ってる訳じゃない。

全てを分かり合ってる訳じゃない。



私が知ってる、長友くん。


いつも明るくて、周りの人間まで巻き込んで笑顔にしてしまう人。

でも、仕事をしてる時の長友くんは、全くの別人で。


真剣な目で、人が変わったみたいに誰よりも仕事に打ち込んでる。



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