社内恋愛のススメ



「有沢なら、平気だろう。」

「ですが………」

「そう心配することもないさ、上条くん!」


部長はそう言って、上条さんの背中をバシバシと強く叩く。

ガハハと、大きな声で笑いながら。


部長の能天気な笑い声が、重苦しいだけだった会議室の空気を確かに変えていく。



「有沢さんには、まだ………荷が重過ぎるかと。」


わずかにずれた眼鏡を直しつつ、そう反論する上条さん。

しかし、部長には敵わない。



「有沢は、君が育てたんだろう。」


そう、私に仕事を教えてくれたのは、上条さん。

他の誰でもない、あの人。


何も分からない、大学を卒業したばかりの私に、企画の仕事を1から叩き込んでくれた。

この会社でやるべきことを、教えてくれた。


厳しく、時には優しく。



「………はい。」

「なら、安心して任せられる。それに、長友だって付いているんだ。」


さぁ、話は終わりだ。

そう言わんばかりに、部長が悠々と席を立つ。


張り詰めた空気が、一気に解放されていく。



部長が席を立つのと同時に、ゾロゾロと会議室から企画部のメンバーが去る。


残されたのは、3人だけ。


私と長友くん。

それに、上条さん。



あの夜、会社のロビーで修羅場を繰り広げた3人が、会議室に取り残されてしまった。







ドクン。

ドクン、ドクン。


再び静けさを取り戻した会議室に、自分の心臓の音だけがやけに大きく響く。

静か過ぎて、余計に大きく聞こえるその音。



あぁ、嫌な緊張感。


思い出したくないことまで、思い出してしまう。

思い出してしまいそうになる。


ふと蘇る上条さんの言葉に、顔を歪めた。



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