社内恋愛のススメ



「君と別れることを承諾した記憶は、僕にはない!」

「文香とのことは謝る。いつか、いつかきっと………別れるから。結婚なんてしないから。」


思い出したくないのに。

忘れていたかったのに。



「君が好きだ。」

「文香よりも、他の誰よりも、君のことを想っている。」


人生って、残酷だ。


つらい思い出も、嬉しかった記憶も忘れさせてくれない。

簡単に消えてなんてくれない。



上条さんの視線が冷たい。


会議室の端にいる上条さんが、私と長友くんのことをじっと見ている。

見ていると言うより、睨んでいると言う方が正しいのかもしれない。


鋭い視線はトゲを含み、突き刺さる様に向けられている。



(耐えられない………。)


この険悪な雰囲気は、そう耐えられるものではない。


上条さんに釣られているのか。

長友くんまで、上条さんのことをきつく睨み付けていた。



おかしいな。

おかしい。


この2人って、ここまで仲は悪くなかった気がする。

少なくとも、この夏までは。



普通の同僚。

至って、普通の上司と部下。


それが、最近はずっとこんな感じだ。



顔を合わせれば、睨み合い。

どちらか一方だけではなく、2人ともそうなのだ。


きっかけは、あの夜。



私が上条さんに呼び止められて、窮地に陥った私を長友くんが助けてくれた日。


あの日からーー……




無言の時間は、何よりも耐え難い。

何の関係もないならまだしも、関係があるからこそ余計に。


その苦痛に耐えられなくなった私は、苦し紛れにこう呟いた。



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