社内恋愛のススメ



それなのに、どうしてそんなことを言うの?

そんなことを言われなければならないの?



上条さんには、文香さんがいる。

社長令嬢で、私なんかよりもずっと女らしくて素敵な人。

文句の付け所がない人。


そんな素晴らしい女性と婚約までしているあなたが、何を言おうとしているの?



悔しさが込み上げる。

切なさと悲しさと、ほんの少しの未練と。


滲みそうになる涙を、私は必死に堪える。


そんな私を庇う様に、長友くんは私の前に立った。



「知らないんですか?」


長友くんが、淡々と言う。

その声音は、いつもの彼とは違うもの。


明るさの欠片もない、氷の様な冷たさを感じさせる声。



顔を上げれば、長友くんの背中が見える。

広くて、筋肉質な背中。



(長友くん………。)


長友くんの背中を見ているだけなのに、胸が切なく鳴る。

ドキンと、音を立てる。


切ない音を立てて、ギュッと私を締め付けていく。


私を背中で庇いながら、長友くんは続けた。



「昔から、俺達は仲がいいんですよ。上条主任なんかよりも、ずーっとね。」

「………。」


長友くんの言葉に、上条さんが言葉を失う。



長友くんの言葉は、嘘じゃない。


長友くんと男と女の関係になったことはないけれど、同僚としての付き合いは長いのだ。



会社の中では、誰よりも仲のいい同僚。

誰よりも、近くにいる人間。


それが、長友くん。



友人と呼んでもいいほど、親しい仲であることは事実だ。



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