社内恋愛のススメ



「このまま、ここにいたって、いいアイデアなんて浮かびませんよ。そんなの、時間の無駄です。」

「何を………。」

「それなら、外に出てリサーチでもした方がよっぽど有意義じゃないですか?直接意見を聞いた方が、いいヒントにもなります!」


胸を張る長友くんの横で、私は頷く。


確かに、長友くんの言うことも一理ある。



この狭い部屋の中で3人で意見を交わしても、煮詰まっているなら、何の解決にもならない。


外に出て、意見を聞く。

直接、自分の耳で声を聞く。


その方が、ここに缶詰め状態でいるより、ずっと有意義かもしれない。



(ん?ちょっと待ってよ………。)


長友くんが外出するということは、この場に残るのは2人だけ。

私と上条さんの2人だけということになる。


この場所に取り残される。

長友くんに置いていかれてしまう。


そんなの、考えるだけで頭が痛い。



だって、別れたとはいえ、恋人だった2人。

今は上司と部下という関係でも、少し前までは全く違う関係だった。


仕事中。

会社の中。


でも、何かあってもおかしくない。



考えたくはないけれど。

上条さんが、そんな人だとは思っていないけれど。


話をするのが、怖い。

何を言われるかが分からないから、怖いのだ。



「君と別れることを承諾した記憶は、僕の中にはない!」


また、そう言われてしまったら。



「文香とのことは謝る。いつか、いつかきっと………別れるから。結婚なんてしないから。」


もう、そんな言葉は聞きたくない。

聞きたくないんだ。



ずっと憧れていた人。


大好きだった人の口から、そんな残酷な言葉は聞きたくない。



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