社内恋愛のススメ



置いていかないで。

お願いだから、上条さんと2人きりにしないで。


ずっと憧れていた人。

1度は好きになったことがある人なのだから、意識をするなという方が無理だ。



何もない保証はない。

何もないことを祈りながら、ここで長い間、長友くんのことを待つなんて………。


お願いだよ、長友くん。


密かにそう願う私に、長友くんはちゃんと手を差し伸べてくれた。



「あ、もちろん、有沢も連れて行きますよ?」


クスッと悪戯っ子みたいに笑って、長友くんがそう言う。


挑戦的な目。

その微笑みは、誰に向けられたものなのだろう。



「ちょ、ちょっと!」


考える暇もなく、長友くんに腕を引かれる。

私を立ち上がらせる為に、腕を強く引いた長友くん。


勢い余って、長友くんの体に倒れ込みそうになった私は、それを寸前で免れた。





(あ、危ない!!)


思ったよりも近くにある、長友くんの胸。


真っ白なワイシャツ。

ほんの少しよれて、シワになったシャツ。


突然近付いた距離に、即座に反応する体。



ドクン。

ドクン、ドクン。


こんなことに反応してちゃ、ダメじゃないか。



私は、今年でいくつになった?

いい年をした大人が、こんなことでドキドキしてどうするの?


初恋じゃないんだから。

何も知らない、ウブな中学生じゃないんだから。



でも、正直………助かる。


息苦しいこの空間から、連れ出してくれる。

それは、今の私にとってはありがたいこと。



< 203 / 464 >

この作品をシェア

pagetop