社内恋愛のススメ
「何故だ?」
「………!」
「有沢さんまで連れて行く必要が、どこにある?」
苛立つ上条さんが、舌打ち混じりに呟く。
上条さんから放たれるオーラに、思わず息を飲む。
普段は感情を表に出さない分、余計にそれが怖い。
そんな上条さんを全く気にせず、我を通す長友くん。
(長友くんって、大物だ………。)
上司である上条さんに楯突いてまで、自分の意見を押し通す。
それが、正しいと思ったことならば。
なかなか出来ることじゃない。
下手をしたら、クビになる。
これからの生活にも関わる。
それが出来てしまう長友くんはちょっと、………ううん、ちょっとじゃない。
かなりすごい。
「ま、じゃあ、そういうことで。失礼しまーす!」
いつもみたいに軽い調子で、長友くんがそう言う。
私を先に歩かせて、長友くんの体に追い出される様にして、会議室を出る。
私を置いて行かない。
私が、上条さんに引き止められない様に。
財布と携帯電話だけを持って、私は長友くんと社外に出た。
外に出た瞬間に襲ったのは、明るい光。
フロアを照らす薄暗い蛍光灯とは違う、自然な灯り。
わずかに目を細めて、前を見る。
「まぶし………い。」
目を細めた先。
そこに見えたのは、長友くんの背中。
首元に指をかけ、ネクタイを軽く緩める仕草。
(ん?)
長友くんに連れられて、外に出た私。
しかし、長友くんが向かおうとしているのは、駅がある方角じゃない。
調査。
街を歩く人から、直に意見を聞く。
そういうことなら、駅前に行くのが手っ取り早い。
駅前は、いつでもたくさんの人がいる。
誰かを捕まえて話を聞くのに、最も適した場所。
てっきり駅に行くものだとばかり思っていたのだけど、どうもそうではないらしい。