社内恋愛のススメ
長友くんの赤い車が、砂利の敷き詰められた駐車場の端に止まる。
長友くんが連れて来てくれた場所。
それは、海。
夏が終わって、人の気配がすっかり消えてしまった、秋の海だった。
秋になったとはいえ、まだ9月。
夏と秋の間にある、まだ暑さが残る時期。
漂う蒸し暑さを吹き飛ばす様に、海風が頬を撫でていく。
サァーーー………
風の音。
波の音。
2つの音が、耳の中でシンクロして聞こえる。
たまに聞こえる車のエンジン音だけが、波間に響く。
(そういえば、海に来るの………久しぶりだ。)
今年のお盆休みは、実家に帰省するだけで終わってしまった。
とてもじゃないけど、週末に海に行く余裕なんてなかった。
それくらい、今関わっているプロジェクトにかかりきりになっていたのだ。
夏らしいことなんて、何も出来ないまま。
こうしてじっくり海を見ることさえ叶わないまま、終わってしまった夏。
最後に行った海。
あの海は、ここじゃなかった。
あれは、夏になる少し前。
ここではない、砂浜で。
隣にいたのは、長友くんではない人で。
嫌でも蘇る思い出に、眉をしかめる。
「有沢さんはいつも頑張ってるから、この景色は有沢さんへのご褒美かな?」
あの人は、そう言ってくれた。
私の隣で、私だけを見て、そう言ってくれた。
もう隣に行くことさえ出来ない、あの人は。
未練がある訳じゃない。
しかし、よぎるのは、楽しかった頃の思い出ばかりだ。