社内恋愛のススメ



いつもみたいに、笑えばいい。


笑え。

笑うんだ。


笑っていれば、きっと忘れられる。



長友くんのことが好きなのかもしれない。

そう、思ってしまったことも。


長友くんの隣を歩く、名前も知らない誰かのことも。



大丈夫。

忘れられる。


きっと、きっと忘れられる。

大丈夫だよ。



微妙に歪む顔。

相変わらず、ズキンズキンと痛む胸。


ヤバい。

ちょっとだけ、泣きそうだ。



滲みそうになる涙を、唇を噛み締めることで何とか堪える。


こんなの、ただの想像。

被害妄想だ。


本当に、どうしようもない。



「じゃあさ、恋人っぽいこと………してみる?」


長友くんの提案は、突拍子もないことで。



「は?何、言って………。」


私が最後まで言い終わる前に、私の口は塞がれてしまった。








耳に届く、リップ音。

唇と唇が、重なる音。


柔らかい何かが、私の唇に優しく触れる。



軽く触れているだけなのに、しっかり伝わる熱。

触れ合った場所から、確かに伝わる相手の熱。


いきなり過ぎて、目は開いたまま。

咄嗟に目は閉じられなくて、見開いたままで。



だから、分かる。

分かってしまった。


自分に、何が起きているのか。

何があったのか。


理解出来ている。



この唇は、長友くんのもの。

長友くんと私が、キスしているのだと。



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