社内恋愛のススメ
「よ、よし………行くぞ!」
まるで、肝試しの前の心境。
自分に対して声をかけないと、1歩も前に踏み出せない。
手には、汗。
ゆっくりと、足を進ませる。
その時だった。
「何してんの?」
後方から、聞こえた声。
耳に馴染むその低い声が、私の心臓を一気に飛び上がらせる。
ドクン。
声を聞いただけで、これだ。
ドクン、ドクン。
私の体は分かってる。
この声の主を。
脳が声の主を判断する前に、体が先に反応してしまうのだ。
クルリと振り返ってみる。
ピクピクと、眉が不自然に吊り上がってしまうのは、何故だろう。
無理に、笑顔を作ろうとしているせいだろうか。
ダークブラウンの短い髪が、蛍光灯の下で暗く光る。
日の光の下よりも沈んだ、深い色。
髪の毛も同じ。
ほんのり茶色い色が、瞳の中に宿っていて。
浮かべられた、微笑み。
味気ない蛍光灯の下で咲く、1輪の大きな向日葵。
そこにいたのは、長友くん。
私がここへ来て、ずっと探していた人。
探し求めていた人。
クスクスと笑って、愉快そうに長友くんは言った。
「さっきから見てたんだけど、お前の動き………ほんと、ウケる!」
「………。」
「怪し過ぎて、意味分かんないわ!!」
気になる人を探している行動を、怪しいと言われてしまった。
ウケると言われてしまった。
私って、一体、何なんだろう。
いやいや、あなたを探していたんですけど。
長友くんの姿が見えないから、気になって。
探して。
心配………してた。
まさか、こんな場面を見られてしまうなんて。
しかも、本人に。