社内恋愛のススメ
「有沢、お前、何かろくでもないことでも考えてただろ?」
ドキン。
ときめきとは全く別の感情が、私の心臓を跳ねさせる。
愛しい。
恋しい。
そういう感情ではなく、焦り。
そう言い表した方が適している気がする。
侮れない。
鋭い男だ。
「バレてんだぞ。」
「な、何も考えてない。そんな………長友くんをどうこうしようとか、全然考えてない!!」
「嘘つけ。顔に出てんだよ!」
私は自分で思っているよりも、ずっと顔に出やすいらしい。
気を付けよう。
もっと顔に出ない様に、細心の注意を払わねば。
表情筋でも鍛えたら、少しはマシになるだろうか。
(こ、今度から気を付けなくちゃ………。)
用心しなきゃ、なんて考えていて、ふと止まる。
ふいに伸びてくる、長友くんの手。
骨太の大きな手が、スッと伸びる。
私に向かって、真っ直ぐに。
伸びてくる手は、ストンと私の肩に落ちた。
ドクン。
ドクン、ドクン。
さっきとは、まるで違う。
焦っている時とは違う、甘い感情がもたらす心音。
熱い。
触れられた場所が、熱い。
異常なほどに、熱を保つ肩。
そこだけが、発熱しているみたいだ。
ダメだ。
ダメだってば。
どうして、こんなにドキドキしているの?
ここは、会社で。
仕事が始まる前で。
誰に見られてもおかしくない場所で、触れられている。
意味を求めてしまう。
この行為の意味を、探してしまう。
特別な理由なんて、ないのに。
ただのスキンシップなのに。