社内恋愛のススメ



だって、長友くんには、好きな人がいる。

結婚したいとまで思っている人が、ちゃんといる。



(忘れちゃいけないんだ………。)


長友くんに、そういう人がいるということ。

そこまで大切に思っている人がいるということ。


あのキスが、何なのか。

ただの戯れなのか。

それとも、別の何かがあるのか。


それは、私には分からないけれど。



「なーに、ボケッとしてんだよ。ほら、さっさと仕事しろって。」


長友くんが私の肩を揺らして、そう言う。


長友くんの言葉に促されて、私はようやく自分のデスクに向かったのだった。







いつもと変わらない日常。

いつもと同じに見える、会社の風景。


でも、見る人の意識が変われば、違う風景に見えるから不思議。



カチカチ。

カチカチ。


キーボードを叩く音。

椅子がわずかに軋む音。


全ては、隣のデスクから。



(好きな人、か………。)


長友くんのことが好きなんだと自覚してしまえば、意識しない方が無理というものだ。

自覚してしまえば、こうも意識してしまうものなのだろうか。


上条さんの時は、どうだった?

こんな感じだったのだろうか。



(上条さんの時は、上条さんとはデスクも離れてたし………。)


上条さんとは、並んで仕事をする機会も多くはなかった。

こんな風に、仕事中にまで気にしてしまうことはなかった。



あの人は。

上条さんは、私にとっては高嶺の花で。

手の届かないくらい、ずっとずっと高い所にいる人で。


だけど、長友くんは違うんだ。



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