社内恋愛のススメ



長友くんは、隣のデスクで。


手の届く範囲にいる人。

私の1番身近にいる人だ。



まさか、こんなに身近にいる人を好きになってしまうなんて。

他に想う人がいる人を、好きになってしまうなんて。


こんな事態、さすがの私も予想もしていなかった。



(ダメだ。………仕事しなくちゃ。)


意識を隣から、目の前のパソコンに移す。

チラチラ隣を気にしてはいるけれど、顔までは向けていない。


だって、私、まともに長友くんの顔が見られない。

見ていられない。



顔を見るだけで、あの海を思い出す。

あのキスを思い出してしまう。


とてもじゃないけど、平常心を保っていられない。



仕事。

仕事だ。


私は、恋をする為にここに座っているんじゃない。


仕事をする為。

働く為に、ここにいるんだから。


そう思った、その時、チャイムの音が聞こえた。




レトロなチャイムが、フロア内に響き渡る。

何ともレトロなこのチャイムは、昼休みを告げる音。


仕事が始まる時間と、昼休み。

それに、定時の5時になるチャイム。


1日に、3回しか鳴らない音なのだ。



レトロな音が鳴った瞬間、真っ先に隣のデスクの人物が立ち上がった。



「よっしゃー、メシだ!」


嬉しそうに立ち上がった人物の名前は、最早、説明する必要はないだろう。


私の隣のデスクの、バカ男。

………長友くんだ。



「お先に、昼メシに行って来まーす!」


財布らしき物を持って、長友くんが全力疾走でフロアを飛び出していく。



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