社内恋愛のススメ



今の長友くんの頭の中には、昼ご飯のことしかないのだろう。

私のことなんか、吹き飛んでしまっているに違いない。



私なんかには目もくれずに、駆け出していく長友くん。

もう既に、その姿は企画部のフロアにはない。


長友くんらしいその行動に、私はふっと笑ってしまった。



「………全く、小学生じゃないんだから。」


そんなに走らなくても、昼ご飯は逃げないのに。

社員食堂だって、すぐに売り切れてしまう訳でもないのに。


ほんと、ガキだ。

子供っぽ過ぎる。


そんな長友くんも、嫌いになれないのだけれど。


長友くんの後ろ姿が見えなくなったのを確認してから、隣のデスクにゆっくりと視線を移した。







私の隣。

長友くんのデスク。


ほんの1分前まで、長友くんが座っていた席。



長友くんがいないデスクは、とても静かだ。


火が消えた、蝋燭。

電池切れのラジコンみたい。


静か過ぎるそのデスクを見ているだけなのに、胸が苦しい。



(長友くんがいない………。)


長友くんがいない。

私の隣にいるはずの人がいない。


長友くんがいないだけで、こんなにも寂しくなるものなのだろうか。



ほんの1分前まで、隣で仕事をしていたのに。

昼ご飯を食べに行っただけなのに。


また隣に戻ってくると分かっているのに、寂しくなる。

寂しく思ってしまう。



「バカみたい………。」


すっかり人の気配が消えたフロアに、私の声が虚しく響く。



目を閉じれば、長友くんの残像。


いつも隣にいるから、長友くんのことはいつでもリアルに思い出せる。

長友くんの影が、私の脳内で揺れる。



あぁ、そっか。


長友くんのあの言葉を聞いたのは、ここだった。



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