社内恋愛のススメ



「俺は、結婚………したいけどね。」


長友くんが言った、結婚という言葉。


長友くんの口から聞かされた、好きな人の存在。

結婚したいと思えるほど、好きで好きで仕方ない人の存在。



あの言葉を聞かされた時。


あの頃は、まだこんなに気にしていなかった。



上条さんと別れたばかりの私は、生きていくことだけで精一杯で。

強がることだけで、頭がいっぱいで。


なけなしのちっちゃいプライドを守ることしか、頭になかった。



そんな中で聞かされた、長友くんの想い人の存在。


私ではない人。

名前も知らない、私ではない誰か。



「だったら、どうして………。」


長友くんには、私の呟きは届かない。

私の本音は届かない。




結婚したい人がいる。

大切に想っている人がいる。


そんな人がいるのに、どうして………私にキスをしたの?



ずっとずっと聞きたくて、聞けなかった。

聞けないままだった。



聞ける訳がない。


それを聞くことは即ち、自分の気持ちを告げることに繋がるのだから。

生まれたばかりのこの気持ちを、長友くんに伝えることになるのだから。



伝えることは怖い。

伝えられない。


伝えてしまったら、今までの関係が壊れてしまう。



今まで通りでいられなくなる。


そんなの、怖い。

誰だって、怖いでしょ?


長友くんの隣に、いられなくなるんだから。



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