社内恋愛のススメ



そっと触れた手が熱い。


熱いのに、私の手は冷えていく一方。

冷たくなるだけだ。


手を重ね合わせて、上条さんが言う。



「文香のことは関係ない。君は、これからも僕のものだ。」

「………!」

「何があろうと、僕の傍を離れることなんて許さない!」


上条さんのその言葉が、私を絶望の淵へと追い詰めていく。




(そんな………。)


上条さんは、何が言いたいの?

上条さんは、私にどうしろと言いたいの?


他に、未来を約束している人がいて。

将来を誓い合っている人がいて。


神の前で、別の人に愛を誓うのに。



愛人になれって、言いたいの?


他人の幸せを壊して、踏みにじって。

ただ待つだけの存在になれと言うの?



(無理だよ、そんなの………。)


出来ない。

そんなことは、私には無理だ。


他の人を不幸にしてまで、自分だけが幸せになりたいだなんて思えない。

他の家庭を壊してまで、自分の感情だけを優先したいとはどうしても思えない。


私には、そんなことは出来ないよ。



だから、別れを選んだ。

好きなのに、離れることを選んだのだ。



何を言っても、分かってもらえない。

上条さんは、私のこの気持ちを分かろうとしてくれない。


自分の気持ちを受け入れてもらえないのって、こんなにも苦しいことなんだ。



上条さんが触れている、私の手。


冷たくなってしまった手が、ゆっくりと麻痺していく。

意思を持たない、ただの肉の塊になっていく。



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