社内恋愛のススメ



愛人になんて、なりたくない。

待つだけの存在になんて、なりたくない。


そんなものになるならば、1人でいる方がずっといい。



ずっと結婚なんか出来なくても、1人のままでいることを選ぶ。


分かってよ。

分かって欲しい。


それなのに、分かってくれない。

分かろうともしてくれない。



大好きだった人は、理解するどころか真逆のことを平気で口にする。


ぼんやりとする頭。

あまりに悲しい現実から逃げそうになった、その時だった。








「やっぱり、嘘じゃん。」


ふと聞こえた、低い声。

低い呟き。


その呟きは、聞き逃してしまいそうなほどに小さい。



でも、聞こえた。

私の耳には、ちゃんと届いた。


だって、大好きな人の声だから。



今の私の頭の中を、簡単に独占してしまう人の声。

私の頭の中も心の中も、いっぱいにしてしまう人。


長友くんの声だから。



「お前か………。」


にわかに焦りの色を帯びる、上条さんの言葉。

いつもと変わらない様に見えて、動揺しているのが微かに分かる。


揺らぐ、上条さん。

長友くんとは、正反対だ。


この場で普段通りなのは、ただ1人。

長友くんだけ。



隣のデスクで、バカ騒ぎしている時みたいな明るさ。

居酒屋でみんなではしゃいでいる時みたいな、ふざけた話し方。


長友くんだけが普段通り過ぎて、この場では浮いて見えた。




「………っ。」


長友くん。

長友くん。


長友くん、助けて。



助けて欲しいと思っていた。

願っていた。


誰にと問われれば、それは間違いなく彼。



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