社内恋愛のススメ



「他の人のこと、好きとか言っちゃダメだよ………。本当に好きな人にだけ、そういうことを言ってあげなくちゃ………ダメ………なんだ………よ………!」


そう言った瞬間、何かが私の頬を伝って落ちた。



私のことを好きだなんて、言っちゃダメだ。

言ってはいけないんだ。


他の人のことが、好きなら。

他の人を愛しているなら、間違いでもそんなことを口にしてはいけない。



愛している、その人はどうなるの?

結婚したいほど好きな、その人はどうなるの?


傷付くじゃない。

私が助けられても、その人は確実に傷付いてしまう。



冷たい涙。

ポタポタと、冷たい雫が滴り落ちる。


冷たい涙は熱く火照った頬を通って、生暖かい液体となって床に辿り着いた。



泣きたくない。

長友くんの前で、泣きたくない。


困らせたくないのに、涙が止まらない。



「泣くなよ………。」

「………っ、………!」


困った様な声で、そう言う長友くん。



あぁ、やっぱり困らせてる。

私、長友くんのこと、困らせてる。


そう思ったその時、ギュッと体にかかる強い圧力を感じた。








「お前、バカだな。」


頭上から降ってくる、長友くんの低い声。

聞こえるはずのない位置から聞こえる、長友くんの声。


耳元に感じる息。

目の前には、スーツの生地。



「バ、バカ………じゃな………い………!」


私の反論さえも、感情の渦が飲み込んでいく。



バカじゃない。

私、バカじゃないよ。


今のこの状況を、ちゃんと理解してる。



狭い給湯室。

長友くんと私だけの空間。


私を抱き締めてるのは、長友くん。



長友くんしか、こんなことを出来る人はいないんだって分かってる。

長友くんが私を抱き締めてるんだって、頭では分かってる。


ただ、気持ちが付いていかないだけで。



< 247 / 464 >

この作品をシェア

pagetop