社内恋愛のススメ



ぎこちなく、握手をした2人。


たった、それだけ。

だけど、恋に落ちるのに理由なんていらない。

まどろっこしい説明も、何の意味も成さない。


その瞬間、私は恋に落ちていたんだ。





それからの毎日は、大学時代よりも楽しいものだった。

長友くんと出会ったのも、この頃。


厳しいけれど、上条さんはたまに違う一面も見せてくれる。


ちょっとだけ、優しくなる。

ほんの少しだけ、気を遣ってくれる。



「………大丈夫か?」


たまにくれる、その一言。

忙しくて目が回りそうな時にかけてくれるその一言が、大好きだった。



いつもは、冷たいのに。

他人のことなんて、気にしていないのに。


ちゃんと見ていてくれたんだ。

私のこと、忘れないでいてくれたんだ。


私を思って、言ってくれているのが分かるから。



「大丈夫です!私、元気ですよ?」


嘘じゃないよ。


上条さんのその言葉があれば、私は頑張れる。

どんな困難にだって、立ち向かっていける。



上条さんの言葉があれば、どんなにつらくても頑張れた。

どんなに疲れていても、笑うことが出来た。


でも、楽しい恋は、長くは続かなかったーー……



入社2年目の春。

社会人になって、2度目の春。


私の教育係だった、上条さん。

私が密かに憧れていた彼に、海外にある支社への転勤の辞令が下った。





「………そんなのって、ないよ。」


上条さんがいなくなる。

ずっと傍で私を指導してくれていたあの人が、いなくなってしまう。


遠くへ行ってしまう。

手が届かない場所へ行ってしまう。



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