社内恋愛のススメ
ゆっくりと、バージンロードを歩く文香さん。
私の横を通り過ぎ、赤い絨毯の続く先へと歩いていく。
絨毯の先。
大きな十字架の前にいるのは、上条さん。
今日から、文香さんの夫となる人。
これから先、文香さんとともに人生を進んでいく人。
歩いてきた文香さんに、上条さんが手を差し伸べる。
真っ白な手袋が、上条さんの大きな手に重なる。
「………。」
重ねられた瞬間、向けられた視線。
遠く離れた位置に立つ上条さんが、私がいる方向を見つめた気がしたけれど。
それは誰も気が付かないほど、一瞬の出来事。
向けられた視線はすぐに文香さんに戻り、式は淡々と進められていった。
神聖な場所で交わされる、神聖な誓い。
背の高い上条さんに、誰もが羨むほど美しい花嫁。
誰が見ても、お似合いの2人。
隣に立つのが私なら、こうはならなかっただろう。
理想の夫婦って、きっとこういうこと。
どこから見ても、絵になる2人だ。
「まぁ、綺麗な花嫁さんね。」
「本当に。花婿さんも、見劣りしないほど男前だし!」
「ふふっ、これは子供が楽しみね!」
親族らしき中年のおばさんが、2人をネタに盛り上がっている。
それも、1ヶ所だけではない。
あちらこちらで、噂話に花を咲かせているから驚きだ。
半年前なら、違っていた。
別れたばかりのあの頃なら、こんな他愛のない噂話に傷付いていた。
ただの世間話に、心を痛めていたのかもしれない。
しかし、今の私に、思ったほどのダメージはなかった。