社内恋愛のススメ
消えかけた痣を隠す様に、コンシーラーを厚く塗る。
眉毛を描いて、腫れた瞼を誤魔化す為に薄いブルーのアイシャドウを乗せて。
血色の悪い肌の色を調整する、健康的な色合いのファンデーション。
そして、ふんわりと頬にはチークを軽く叩く。
一目で見て分かるほどこけてしまった顔は、メイクでは隠しようがなかった。
(痩せちゃったな………。)
無理もない。
この2週間、ほとんどロクに食べ物を食べることが出来ないままだった。
口に入れれば、吐いてしまう。
薬の副作用が消えても、食べ物を口にしただけで戻してしまう。
水分とゼリーだけは口にしていたけれど、それだけでは体は保たない。
体力がないから、すぐにふらついてしまうのだ。
どうしたの?
そう聞かれたら、ダイエットだと答えるしかない。
元々、痩せている方ではない私。
むしろ、少し痩せた方がちょうどいいんだ。
このくらいでいいんだって、自分にもそう言い聞かせてる。
通勤用のバッグの中には、真っ白な封筒を忍ばせて。
その封筒には、こう書いた。
退職願。
初めて書いた、退職願。
これを出す為に、私は今日、出社するのだ。
久しぶりに乗る電車。
久しぶりの会社。
ロビーに辿り着けば、嫌でも話しかけられる。
「おー、有沢、久しぶり!」
「どう?まとまった連休は。纏めて、有休消化したんだって?」
気軽に話しかけてくる知り合いの社員に、私も笑顔で答える。
「おはようございまーす。お陰様で、ゆっくり休めました!」
顔が引きつる。
でも、大丈夫。
ちゃんと笑えてる。
私、ちゃんと笑ってる。