社内恋愛のススメ
エレベーターを降りれば、目の前に広がる企画部のフロア。
朝の光に満たされた空間は、閑散としている。
誰もいなくて。
何の音もしなくて、不気味なくらいに静かだ。
いつもは、もっと賑やかなのに。
騒がしいくらいに、いろいろな音と声で満ちているのに。
いつもの位置にある、私と長友くんのデスク。
隣り合わせで並んでる、私達のデスク。
長友くんのデスクは、普段通り。
書類とファイルで溢れ返っていて、今にも崩れ落ちそうで。
そんな当たり前とも思える光景に、思わずクスッと笑う。
隣の私のデスクは、主が不在だったせいか、ファイルが何冊か置かれているだけ。
もしかしたら、隣の長友くんのデスクに置ききれないファイルが重ねてあるだけなのかもしれない。
かなり離れた位置にあるのは、上条さんのデスク。
主任である上条さんのデスクは、部長のデスクの隣だ。
(いつもと同じはずなのに、な………。)
緊張するのは、いつもと違う気持ちでこのフロアを眺めているせいだろうか。
それとも、これから起こることを見越しているからなのだろうか。
まず真っ先に、あの2人の姿を視線だけで探す。
(よし、大丈夫。)
予想通りだ。
長友くんが、こんな早い時間に出社しているはずがない。
上条さんの姿もない。
あの2人だけではなくて、他の人間もいなかったけれど。
(………部長、1番乗り、私なんですけど。)
あれ?
確か、1番乗りを目指して行くって言ってたんだけどな。
部長が来ていないことには、何も始まらない。
退職願を出すことも、話をすることも出来ない。
仕方なく、自分のデスクに座ることにした。