社内恋愛のススメ



耳障りな金属音を響かせ、キャスター付きの椅子が私を迎え入れる。


固い椅子の上には、キャラクター物のクッション。

お気に入りのピンクのウサギ。


クッションを見て、よく隣の長友くんにバカにされてた。



「有沢って、中身も見た目も男らしいのに、そのクッションだけは可愛らしいよな。」

「長友くん、何が言いたいの………?」

「あー、有沢さんは可愛いよなって話だよ。」

「お前、マジでしばいてやる!!」

「い、いてっ!冗談だって、ファイルで叩くな!!」



今では、そんな会話ですら懐かしい。


きっと、もうあんな風に笑い合うことはない。

可愛いと、冗談混じりに言ってくれることもなくなるだろう。



私のデスクに置かれたファイルは、やっぱり長友くんの物であるらしい。


雪崩の様に落ちてきそうなファイルを支えて、ポツンと呟いた。



「全く、しょうがないんだから………長友くんは。」


他人のデスクに、自分の荷物を置くな。

私のデスクは、長友くんの荷物置き場じゃない。



(私がいない間、アイツ………私のデスクを私物化してやがったな。)


そんな気がしてならない。

まぁ、これが初めてという訳でもないから、もう慣れているけれど。


長友くんが出社したら、本人に片付けさせよう。



私では、分からないこともある。

必要な書類まで捨ててしまっては、業務だって滞る。


あと1時間もすれば、きっと来る。

遅刻魔の長友くんが、隣のデスクに座るはず。



長友くんに会ったら、私はいつもみたいに話せるだろうか。


長友くんと、会話なんて出来るのだろうか。



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