社内恋愛のススメ
「お前は働き過ぎなんだよ。有沢は、もっと休んでもいいくらいだ。」
私に、気を遣わせない為か。
部長が、そんなことを言う。
部長の小さな気遣いが、荒んだ私の心に優しく染みた。
(部長、本当にごめんなさい………。)
理由さえ言えずに、会社を休んで。
自分の都合だけで、他の人に迷惑をかけて。
ごめんなさい。
本当にごめんなさい。
優しく気遣ってくれる部長に、私はこれから更に言いにくいことを言わなければならないんだ。
入社してから、私にたくさんのことを教えてくれた部長。
直接教育係になってくれた訳ではないけれど、部長は私にいろいろなことを教えてくれた。
社会人としての知識を、私に指導してくれた。
宴会の時は面倒な人だけど、それでもみんなに慕われている部長。
そんな人に、会社を辞めることを伝えるのだ。
「あの、部長………お話が。」
意を決した私の声を遮る様に、シーンとしたフロアに機械的な音が響き渡る。
ウィーンーー……
カタカタと音を立てながら、何かが動く音がする。
聞き覚えのあるその音の正体は、ファックス。
そんなに珍しいことではない。
取引先とメールでやり取りをすることも増えたけど、まだまだファックスだって送られてくる。
よくあることだ。
「有沢、ファックスを確認してくれないか。大事な案件だと困るからな。」
部長がスーツのジャケットを脱ぎつつ、私にそう告げる。
「はい、分かりました。」
部長の言葉に従って、私は席を立つ。
フロアの中央付近に置かれた、ファックスの機械。
誰でも使いやすい様にと、この場所に置かれているのだ。
出てきた用紙を手に取り、目を通す。
紙に目を通した瞬間、私の心臓が嫌な音を立てて飛び跳ねた。
ドクン。
(え?何、これ………。)
ドクン、ドクン。
不自然な文字の羅列が、不安を煽る。