社内恋愛のススメ



バラバラの大きさに切り取られた文字が、貼られた紙。


黒地に白い文字。

灰色の地に黒い文字。


別々の色に染まる文字が並ぶ。



新聞の見出しにある大きなタイトルを、1つずつ切り抜いて貼った様に思える文字の羅列。


一瞬で閃いた。

これが、何であるのかを。



(これって、脅迫文………?)


テレビのニュースやドラマで見た記憶があるのだ。

こんな風に、バラバラの文字が貼り付けられた文章を。


脅迫文。

誰かが、誰かを陥れる為に書いた文ということ。



次々に流れる、ファックスの紙。

紙に書かれた文字を、目で追う自分。


震える手が、あの人の名前を書いた文に触れた。



『企画部主任・上条 仁は、不倫をしている。同じ会社の社員が、その相手だ。』

『すぐに処分をしろ。そんな人間は、社会から抹殺すべきだ。』

『さもなければ、会社は多大な損害を被ることになるだろう。』



ガタガタと、足までもが震えていく。

立っていられない。


時間が止まる。

ううん、きっと、私の時間だけが止まっているんだ。


固まって動けなくなる私とは対照的に、ファックスの音は警戒にリズムを刻む。



『誰なのかは、分かっている。』


私の存在が知られている。

少なくとも、このファックスを送り付けてきている人物には知られているのだ。



『隠そうとしても、無駄だ。不道徳な人間には、制裁を。』


不道徳な人間。


無理に奪われただけなのに。

望んで、そうなった訳ではないのに。



制裁を。


制裁を受けるべきなのは、私とあの人。

上条さん。


私の考えを読んでいるみたいに、ファックスが文字だけで答えている様だ。



おぞましいファックスの最後を締めくくったのは、この言葉だった。



『地獄に落ちろ!』


(地獄に落ちるのは、私………なの?)


そうなの?


このファックスは、私に話しかけているみたいだ。

不本意とはいえ、上条さんと体を重ねてしまった私に。



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