社内恋愛のススメ
『対峙』



予感はしていた。

いつか、きっとこうなるのだと。


上条さんと結婚した、文香さん。

彼女と話をする日が来るのだと、心のどこかで分かっていた。



その日は、思いの外、早くやって来てしまった。


突然のファックスとともに、彼女は私の目の前に現れた。



憧れだった上条さんと、付き合うことになって。

だけど、横から文香さんに奪われて。


身近に本当に大切な人を、やっと見つけたのに。

見つけたばかりだったのに。



あんなことがあったのだ。

何もなかったままという訳にはいかない。


世の中、そんなに甘くはないということだ。



歪みは、必ず表れる。


何もなかった頃のままではいられない。

幸せだったあの頃には、もう戻れない。









始業時間よりも、1時間以上早い時間。

エレベーター前で向き合う、同じ20代の女が2人。



呼吸が速くなる。

目眩がする。


だけど、根性で足を踏ん張って立っていた。



「はい、有沢は私ですが………。」


私は文香さんの問いかけに、静かに答える。


文香さんは分かっている。

私が誰であるかを分かっていて、あえてそう聞いているのだ。



逃げられない。

他人のフリをすることも出来はしない。


私に出来ること。

それは、真っ直ぐに彼女を見つめることだけ。



「少し、お時間を頂いてもいいかしら?………あなたに、お話があるの。」


クスクスと笑いながら、文香さんが小首を傾げる。

私はただ、その言葉に頷く。



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