社内恋愛のススメ



私が選んだのは、休憩室だ。

休憩室とは言っても、そんなに大したものではない。



3台並んだ、自動販売機。

自動販売機には、ありきたりなジュースが並ぶ。


自動販売機の前には、5セットの丸テーブルと椅子。



その隣には、透明なガラスで囲われた喫煙ルーム。

結構きっちり仕切られているから、煙はここまでやって来はしない。



「俺、ちょっと休憩してくるわー!」


喫煙者の長友くんがそう言って、よくここで息抜きをしていることを私は知っている。



誰もいない部屋。


当たり前だ。

今は、就業時間内なのだから。


人事部で過ごしているうちに、チャイムは鳴ってしまった。



もうみんな、企画部のフロアで仕事をしている頃だろう。


パソコンのキーボードを連打したり、打ち合わせを始めているはず。

仕事が始まったばかりのこの時間に、ここにいる社員はいない。


だからこそ、私はここを選んだのだけれど。



お金を入れて、自動販売機で飲み物を買いたいけれど、それすら出来ない。


お財布は、デスクの上。

取りに戻るには、1度フロアに顔を出さなければならない。



噂が広まるあの場に行かなければ、飲み物さえ買えない。


長友くんの横を通過して、上条さんの顔を見て。

みんなの視線に耐えてからじゃないと、喉を潤すことも出来ないのだから。



仕方なく、置かれたパイプ椅子に座って、テーブルに肘を付く。


頭を抱え込む様にして、体を丸めて座った。



(左遷、か………。)


初めての経験。


クビにすら、してもらえない。

辞めることも出来ない。



私は、何も選べなかった。

決意だけは固かったのに、それが許されることはなかった。


助かったと思うべきなのか。

それとも、落ち込むべきなのか。



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