社内恋愛のススメ



長友くんが、目を見開く。


途端に、歪んでいく顔。

傷付いた長友くんの顔は、みるみるうちに苦しげなものへと変化していく。



傷付けたくなかった。


大好きな人を傷付けてしまうのは、私だって嫌だ。

私だって、心苦しい。



でも、嘘はもっとつきたくない。

あなたにだけは、嘘をつきたくなかったんだ。

長友くんにだけは、嘘はつきたくない。




「長友くん、別れよう………。」


ごめんね。

ごめんなさい。


長友くん以外の人に抱かれてしまって、ごめんなさい。

こんなに私のことを好きでいてくれたのに、その気持ちに応えられなくてごめんなさい。



謝っても謝っても、足りない。

全然足りない。


だから、怒って。



殴ってもいい。


罵って。

叫んで。


そして、嫌いになって欲しい。



「もう、終わりにしよう?」


無理なのだ。


これ以上、騙し続けることも。

これ以上、嘘をつくことも。



愛している人に、別れの言葉を投げ付ける。


次の瞬間だった。








長友くんを見ていたはずの私の目が、何も映さなくなる。


目に映るのは、黒。

闇夜の様な、黒い生地だけ。



ギュッと、私の体を締め付ける黒。

私の視界を塞ぐ黒。


見慣れたスーツの生地。



私は知っている。

このスーツの黒を、この懐かしい感覚を、私はよく知っている。


長友くん。

長友くんだ。



椅子に座っていた体が、無理矢理に持ち上げられる。


ガタンと、転がっていく椅子。

誰もいない静かな休憩室に、大きく響く音。



長友くんが、私の体を抱き締める。

力強く、壊れそうなほど。

ギシギシと、骨が音を立てて痛み始めて。



離すまいと、長友くんがわざと力を込めているのがよく分かった。



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