社内恋愛のススメ



そんなこと、言わないで。

浮かれさせる様な言葉を、私に与えないで。


甘やかさないでよ。



消したはずの夢を、もう1度見たくなる。


長友くんと一緒にいたい。

ずっと隣にいたい。


長友くんとの未来を、もう1度夢見たくなる。



押し問答を続けても、長友くんは納得してくれない。

離してくれない。


嫌いになって欲しいのに。

嫌われたいのに。



長友くんに好かれる理由も、資格もないんだよ。

今の私には、何もない。


抱き締めてもらうことさえ、もったいないくらい。



長友くんの息が、肩にかかる。

長友くんの重みが、全身にかかる。


私を強く抱き締めたまま、長友くんが私にこう告げた。





「有沢、結婚しよう。」

「………!」

「俺達、結婚するんだ。」

「な、に………言ってるの?」

「俺は、お前と離れたくない!お前がいなくなるなんて、俺には考えられないんだよ………っ。」



それは、初めてのプロポーズ。

大好きな人がくれた、未来を誓う言葉。


その言葉に頷くことは、今の私には出来ない。

出来やしない。



こんな汚れてしまった体では、長友くんと未来を誓えない。

長友くんと一緒にいることなんか出来ない。


そんな資格、私にはないんだよ。



ごめんなさい。

ごめんなさい。


ごめんなさい………。



ドンッと、強く押す。


長友くんの隙を狙って、強く押した体。

触れていた体が離れていく。


感じていた息が感じられなくなる。








さよなら。

さようなら。


大好きな人。

やっと見つけた、私の大切な人。



もう2度と会わない。

会うことはない。


長友くんの腕の中をすり抜けて、バッグを掴んで会社を飛び出す。



私は逃げたんだ。

逃げ出したんだ。


長友くんからも、会社からも、全てから逃げ出したんだ。



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