社内恋愛のススメ
『恋の始まりは入社式』
side・長友





アイツに会ったのは、6年前の春。


入社式の日だった。



ちょうど桜が綺麗に咲いていて、薄紅色に染まる世界。

薄紅色とは対照的な、灰色のコンクリートのビルの中。


有沢と俺は出会った。


今では、遠い過去の時間の流れの中でのこと。








(うわ、やべー!すっげー、緊張するんだけど………。)


フワフワとした、妙な高揚感。

それと、今まで感じたことのないほどの緊張。


心臓が口から出そうになるって、こういう状態のことなのだろうか。



胸の高鳴りを隠しきれずに、そわそわと落ち着かない1人の男。


当時の俺。

長友 千尋、22歳。



大学を卒業したばかりで、まだまだ若かった俺。


学生気分が抜けきらない俺は、この入社式というイベントを前に、酷く緊張していた。



何でもかんでも、幼い頃からそつなくこなしてきた。


成績だって悪くはなかったし、テストだって上から数えた方が早かったくらいだ。

頭がいいと言うより、器用だったのかもしれない。


何に対しても、上手く。

まぁ、本当は勉強よりも、体を動かすことの方が好きだったけれど。



無難な成績で、大学を卒業した俺。


大学4年の秋には既にもらっていた、内定通知。

それは、憧れの商社の内定で。



就職難のこの時代に、さっさと内定をもらえたことが嬉しかった。

バカだから、周りの友達にも自慢していた。


そんなことさえ、今では懐かしい。



それくらい、入りたかったんだ。

この会社に。


憧れの商社で働く自分。

スーツを着こなして、バリバリ働く自分。



考えただけでも、ワクワクする。

不安なんてなかった。


ただただ楽しみで、だから気合いも入っていたのだ。




(やっぱ、初日が肝心だよな!)


そう思って、バッチリ決めてきた髪型を軽くいじってみる。



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