社内恋愛のススメ



「これか。」

「はい!」

「………こっちに来なさい。今、教えるから。」

「あ、ありがとうございます!!」



無表情の眼鏡男が、有沢を呼ぶ。


眼鏡の奥の細い目は、揺らぎもしない。

何の色もない。



ああ、分からない。

この男が、何を思っているのか。


1つ言えるのは、この時点では、まだそれほどこの男のことを嫌いという訳ではなかったということだ。



ただの無口な先輩社員。

羨ましいほど、有沢に好かれる男。


それだけだ。



「すいません、お願いします。」

「別に構わない。」


有沢も有沢で、気を張ってる。

何事もないかの様に装って、普通の後輩を演じてる。


自分の気持ちを悟られない様に。

相手を困らせない様に。



自分の気持ちを押し付けて、相手を困らせたくない。

そこまでして、恋を叶えようとはしていない。


ただひたすら、相手のことを考えている。


そんな有沢が、いじらしかった。



教育係の上条さんと、その上条さんに教えを請う有沢。


2人をどんな気持ちで見ていたのかなんて、分からないだろう。

他のヤツには。





(くそ、………ムカつくんだよ。)


何なんだよ、あの2人は。


あんなにくっ付きやがって。

くっ付き過ぎだ。



絡む視線。

たまに触れる肩。


見ているだけで、胸が焼け焦げそうだ。



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