社内恋愛のススメ
頭の中は仕事モードなのに、隙間を割ってまで、有沢の存在は俺の頭の中に入り込んでくる。
複雑。
そんな言葉じゃ、収まりきらない。
嫉妬。
ああ、そうだ。
嫉妬してる。
格好悪いくらいに嫉妬してるよ。
あの男に。
俺よりも近くにいなかったクセに、スッとやって来て、有沢の心を奪っていったあの男に。
代われるものなら、代わりたい。
それで、有沢に好かれるのならば。
こんな時に、改めて実感するんだ。
有沢のことが好きなんだって。
俺だけが好きで好きで堪らなくて、有沢は別の方向を見てるんだって。
有沢は、俺を見ない。
一方通行の気持ちを、有沢の隣で抱えたまま。
季節は流れる。
止めどなく、川の様に。
落ち続ける砂時計の様に。
その間に変わったことと、変わらないこと。
変わったこと。
それは、上条さんが消えたことだ。
あの人が上昇思考が強いってことは、うちの企画部の人間なら誰でも知っていた。
それだけの仕事を抱え込み、何でもない顔をして無表情でさばいていたから。
エリート路線まっしぐらの上条さんは、有沢のことなんか気にもせず、有沢を置いてアメリカへと旅立った。
声がかかったのだ。
アメリカにある、うちの海外支社から。
優秀な男は、もちろん英語だって完璧。
その評判を聞き付けた人事部が、アメリカ支社が欲しがっていた人材として、あの人を出向させた。