社内恋愛のススメ
変わらないのは、俺と有沢の関係。
俺は相変わらず、有沢のデスクの隣。
いつまで経っても、有沢の同僚という枠からはみ出せない。
抜け出したいのに。
変えたいのに。
手が出ない。
この関係を崩す決断が出せない。
手を伸ばせば届く位置に、俺はいつもいる。
有沢の隣に、いつもいるのに。
変わらないまま。
変えられないまま、時間だけが過ぎていく。
そんな俺と有沢の関係に変化をもたらしたのは、やはりあの男だった。
あの男が帰ってくる。
上条 仁。
有沢の心を奪っていったあの男が、またここに来る。
そう聞かされた瞬間、血の気が引いていくのがはっきり分かった。
(ほんとかよ………。)
有沢が好きな、アイツ。
上条 仁が、アメリカから帰ってくる。
やっと離れてくれたと思っていたのに、あの男が再び俺と有沢の前に帰ってくるのだ。
主任に昇格という、おまけ付きで。
まずいだろ。
どう考えても、まずいって。
あの有沢が、あんなにも恋い焦がれた男。
あんなに好きだった男が、また有沢の前に現れる。
正気でなんかいられるか。
焦らずにいられるか。
いつかは、と覚悟していた。
ずっとアメリカにいてくれる訳じゃない。
いつかは日本に帰ってくる日が来る。
それは、分かっていたこと。
だけど、こんなに早く帰ってくるなんて。
嫌な予感ほど、よく当たる。
当たってほしくないことほど、見事に当たってしまう。
アメリカから帰ってきた上条主任と有沢は、すぐに付き合い始めた。