社内恋愛のススメ



私は忘れない。


一生懸命駆け抜けた、あの毎日を。

きっと、これからもずっと。








長友くんと別れてから、1年2ヶ月。


転属という名で本社から厄介払いをされてから、いくつもの季節が流れた。



長友くんと離れて、会えなくなって。

すぐに、誕生日が来て。


春が来て、あっという間に夏が通り過ぎていく。

物悲しい秋は足早に去り、厳しい冬が訪れる。



巡る。

巡る。


季節が巡る。



1人ぼっちの季節が巡って、また同じ季節がやってくる。


そして、誕生日が来て、私は29歳になった。



1人きりの誕生日は、虚しく1人でお祝いしてやった。


コンビニで買ったケーキと、缶ビール。

仕事帰りにコンビニに寄って、自分を祝う為の品を自分で買う。



「んー、おいしー!」


ショートケーキをフォークで突っついて、ビールを一気飲みして。

ふとした瞬間に思い出した、長友くんの顔。


どうして、思い出してしまったんだろう。

どうして、忘れられないんだろう。



(あーあ、結局、長友くんには誕生日プレゼントももらわずじまいだったな………。)


誕生日をともに過ごすこともなく、終わってしまった関係。

終わらせてしまった関係。



プレゼントが欲しかったんじゃない。

長友くんとの時間が欲しかったんだ。


大好きな人に、自分の誕生日を祝ってもらって。

目の前に、好きな人がいてくれて。


それだけで、十分過ぎるくらいに幸せだったはずだ。



それも、叶わない夢になってしまったけれど。


脳裏をよぎる、長友くんの優しい面影。

その面影は、未だに私の心を締め付ける。



(長友くん………。)


会えない彼の名を、心の中で叫ぶ。


もう口に出して、呼ぶこともない。

大好きな人の名前を。



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