社内恋愛のススメ
「怖かっただろ?」
「………っ。」
怖かった。
怖かったよ。
誰も助けになんて来てくれなくて、叫んでも誰にも声は届かない。
助けて。
助けて。
誰か、お願い。
でも、誰も来てはくれなかった。
力もなくて、私は自分の力で上条さんの魔の手から抜け出すことも出来なかった。
非力な自分を、あの時は何よりも恨んだ。
「頑張ったな、有沢。1人で抱え込んで、つらかっただろ………。」
誰にも言えなくて。
こんなこと、誰にも話せなくて。
死ぬまで、誰にも話すことはないと思っていた。
この苦しみから解放されることはないのだと、諦めていた。
「う………っ、ああ………、やぁぁぁぁ………っ!」
涙腺が緩む。
ポツンポツンと、雨の様に涙が際限なく落ちていく。
私の涙腺を壊したのは、長友くんだ。
「有沢………。」
「長友………くん………。」
長友くんが、私を呼ぶ。
私の名前を呼びながら、優しく頭を撫でてくれる。
私が大好きな、その大きな手で。
長友くんの大きな手が、私を素直にさせていく。
固まった心を解していく。
この1年と2ヶ月、溶けることがなかった心を。
ねえ、もう1人で悩まなくてもいいの?
誰にも言えないあの記憶に、蓋をしなくてもいいの?
私は、もう1人で苦しまなくてもいいの?
「こ、怖かった………の………。」
「うん………。」
「すっごい、すっごい………怖かった………。」
「ああ、分かってる。」
隠し続けていた記憶。
言えなかった情事。
解き放たれていく、苦い思い出。
「な、長友くんじゃない人と、そういう風になるの………嫌だった!」
長友くんではない人と繋がって。
長友くんではない人に感じて。
嫌だった。
ただひたすら、嫌だった。