社内恋愛のススメ
「俺、あの男から聞いたんだ。お前がいなくなってから、すぐ。」
「あの男って、上条さんのこと………?」
久々に口に出す、かつて愛した人の名前。
そして、私の心を踏みにじった人の名前。
長友くんがあの男と言い表す人間なんて、上条さんしかいない。
長友くんは、私と上条さんが付き合っていたことを知っていたから。
他の人は分からなくても、長友くんだけは気が付いていたから。
上条さんが、当時の彼女である私よりも文香さんを取ったことも知っている。
社長の娘を選んだことも、全て知っているのだ。
だから、上条さんのことを軽蔑していたし、何より警戒していた。
婚約者がいながら付き纏うあの人に、目を光らせていた。
耳元で、長友くんが小さく言う。
「無理矢理………だろ。」
「………、それ………は………っ。」
「有沢が嫌がってるのに、あの男はお前の気持ちを無視して………抱いたんだろ?」
あの日の記憶が蘇る。
消したくても、消せない記憶。
おぞましいだけの記憶。
逃げても逃げても、捕まえられる。
抵抗しても、組み敷かれる。
生々しい感覚と、赤い跡。
狂気に満ちた笑顔。
目の前には、かつて愛していた人の顔。
封印していた記憶が解放される。
思い出したくもないのに、思い出す。
体が震える。
無意識に、ブルブルと大きく震え出す。
怖い。
怖い。
嫌だ。
嫌だよ。
もう止めて。
お願い、もうこれ以上壊さないで。
私の心を壊さないで。
私に触らないで。
いやだ。
嫌だ。
イヤダ。
「う…………っ、い、や………、やだ………。」
苦しい。
息が出来ない。
詰まって、肺にまで空気が届かない。
苦しげに呼吸を繰り返す私を、長友くんがそっと包み込む。