社内恋愛のススメ



「やっと掴んだんだ、お前の手がかり。それから、部長に必死に頭を下げて、転属を願い出て………。」

「長友くん………。」


長友くんがここに飛ばされてきたのは、偶然なんかじゃなかった。

たまたま、支社に転属になった訳ではなかったのだ。


全ては、長友くんの努力の賜物。



部長もその上の人間も何も教えてくれなかったのに、私が送ったメールを見つけて、私が飛ばされた支社を割り出した。


それだけじゃない。

本来ならば本社勤務から外れることもないのに、自ら転属を願い出た。


その希望が叶うまで、頭を下げ続けた。



ここに辿り着くまで、長友くんはこんなにも一生懸命に動いてくれていた。


私に会う。

ただそれだけの為に、長友くんは下げたくもない頭まで下げてくれていた。


その事実に、胸が熱くなる。



「大変だったんだぜ、上の人間を説得するの。」

「ごめんね………。」

「ほら、俺って優秀だし。同期の中じゃ、期待されてる人間だから!」

「………は?」


何、言ってんだ、この男。

さすがに我慢出来なくなって、1発お見舞いしてやった。


突っ込み代わりの鉄拳に、長友くんが痛そうに呻き声を上げる。



「うわ、いってー!おい、殴ることないだろ!!」

「あー、ごめんごめん。つい………。」


うっかり昔のクセで、手が出てしまった。

いかん。


頭を抱えながら、何故か嬉しそうにしている長友くん。

マゾだったら、どうしよう。

変なスイッチ押してたら、どうしよう。


冷たい視線を密かに送りながら、私は長友くんに久しぶりに説教をする。



「あのねー、そういうのは他人に言ってもらうから意味があるんだよ。自分で言ったら、何の意味もなくなるの!」

「はー?だって、事実じゃん。」


全く、この男は。


確かにその通りだから、あまり強くは言い返さない。



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