社内恋愛のススメ



「有沢さん?」


僕が声をかければ、すぐに上を向く彼女。


一瞬見えたのは、泣きそうな顔。

悲しげに歪んだ顔が、ほんの一瞬だけ垣間見える。



「か、上条さん!」


ああ、ずっとそう呼んで欲しかった。


4年前みたいに。

あの頃と同じ様に、僕のことを呼んで欲しかった。


それなのに、ハッと表情を曇らせて、有沢さんは僕の名前を言い直す。



「………じゃなくて、上条主任。どうしたんですか!?」


主任。


確かに、今の自分は企画部の主任なのだけれど。

彼女の言ったことに、間違いはないのだけれど。



あの頃と同じ様に呼んでもらいたい。

僕を追いかけて、慕ってくれていた4年前と同じ様に呼んで欲しい。


そう願うのは、我が儘だろうか。



「主任なんて肩書き、付けなくてもいいさ。」


ここは、会社じゃない。

居酒屋の前だ。


僕と君の他には、誰もいない。



こんな場面でくらい、昔に戻りたい。

1番近くにいた頃の自分に戻りたい。


君の前では、主任でいたくないんだ。



「………っ、でも………!」

「ここは、会社じゃないんだ。まして、今は就業時間内でもない。プライベートな時間だ。」

「有沢さんがいなくなったから、探しに来たんだ。」

「わ、私を探しに………?」


そう、君を探してた。


アメリカでも、きっと。

いないと分かってたのに、心のどこかで期待していた。


もしかしたらと、探すことを止められなかった。



「有沢さんの番号、前と同じ?」

「変わってないですけど………。」

「今度、食事にでも行かないか?」

「し、食事………って?」

「有沢さんの予定が空いている時で構わない。」


具合が悪い時にこんなことを言われて、君は戸惑うだけかもしれない。

どうして突然、こんなことを言い出すのだと思うかもしれない。


でも、僕からしてみれば、突然でも何でもない。



ずっと誘いたかった。

自分の気持ちに気が付いてからは、尚更。


君の目を見て、君に誘いの言葉をかけたくて仕方なかったんだ。



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