社内恋愛のススメ
大切なものを見守る勇気。
手放す勇気。
相手の幸せだけを願う勇気。
それが、僕と文香に足りなかった。
「少し風が出てきたな。窓を閉めようか。」
僕はそう言い、席を立とうとする。
そんな僕を止めたのは、文香。
「いいの、仁さん………。」
「文香?」
「風が気持ちいいから、もう少しだけ………このままで。」
文香がそう答え、僕の隣に腰かける。
文香の頭が、僕の肩に乗せられる。
サァーーー………
吹き抜ける風。
肩を寄せる妻に風が当たらない様に、僕はそつと妻の体を抱き締めた。
文香、君の肩は、こんなにも頼りないものだったんだね。
細くて、今にも折れてしまいそうな体。
こんなか弱い女を、僕が傷付けた。
この僕が。
抱き締めると同時に香る、妻の香水。
大嫌いだったはずの、甘い匂い。
甘ったるいその香りが、僕の心を優しく解きほぐしていく。
実和。
実和、今、君は何をしているんだろう。
何を思っているんだろう。
僕の愛した君は、何を思っている?
何を考えて、誰のことを想っている?
願わくば、僕のことを忘れないで。
自分勝手で最低な僕のことを、どうか忘れないでいて欲しい。
それが、僕の戒めになる。
それだけが、僕に出来る償いだから。
許されたいだなんて、思っていない。
許されるとも、思っていない。
ただ、君に平穏が訪れることを、心の底から祈ることしか出来ない。
「文香。」
「なぁに?」
君を愛せる様に努力する。
あの日の誓いは、偽りのものだったけれど。
気持ちなんて、これっぽっちも入っていなかったけれど。
僕の為に傷付く妻を。
僕のことだけを求める妻を、幸せにしてあげたいと思う。
愛せたらいいと思う。
それが出来るかどうかは、まだ分からないが。
それが、僕の為になる。
妻の為になる。
傷付けた人達への贖罪になると、信じているから。
【完】
