社内恋愛のススメ
それは、待ち望んでいた誘い。
あの言葉は、嘘じゃなかったんだ。
聞き間違いでもなくて、幻でもなくて、本当だったんだ。
信じられない。
全く信じられない。
あまりの信じられなさに、つい頬を強くつねってみる。
(い、痛い………!)
頬に感じる痛み。
それは、この状況が現実であることを教えてくれる。
右頬に走る痛みとともに訪れたのは、何とも言えない高揚感。
雲みたいに、フワフワと。
綿菓子みたいに、甘くて。
そのまま、どこかに飛んで行ってしまいそう。
心が浮かんでいく。
夢じゃない。
夢じゃないんだ。
夢みたいに思えるけど、これは現実なんだ。
答えは決まってる。
そんなの、あの夜から決めていた。
断る理由なんて、何もない。
「はい、喜んで!」
翌日の朝。
いつもと同じく、朝日が昇る。
今日もまた、世界を明るく照らしていく。
いつもと変わらない朝。
いつもと同じニュース番組が、テレビから流れる。
そのニュース番組をぼんやりと見ながら、私はふと昨日のことを思い出していた。
「じゃあ、明日の朝10時に、有沢さんのマンションの前まで迎えに行くから。」
「は、はい!」
「また明日。」
上条さんは当たり前の様にそう言い、静かに電話を切る。
プツン。
通話の途切れた電話は、上条さんの声を届けてくれることはない。
切られた方の私は、携帯電話を持ったまま、呆然としていた。