社内恋愛のススメ



(ほ、本当に上条さんから電話が来た………。)


信じられない。

夢でも見ているんじゃないだろうか。


だけど、それでも信じたくて。

夢みたいに思えるこの現実を、信じたくて。



嘘みたいな、本当の話。

夢みたいな、現実のこと。


どうしよう。

どうしよう。



「ま、まずは………パック?」


ずっと前に使ったきりでしまい込んでいた美顔パックを、引き出しの奥から引っ張り出す。


使用期限って、あるのかな。

大丈夫だよね、きっと。


そんなどうでもいい心配をしながら、美容成分たっぷりのパックを顔に乗せる。



鏡を見れば、真っ白な顔。

エジプトのミイラみたい。


ちょっと不気味だけど、仕方ない。


全ては、綺麗になる為。

少しでも綺麗になって、上条さんの前に立つ為だ。



ムダ毛のチェック。

スベスベな肌になる、ボディークリーム。


控えめな白いマニキュアを、両手の爪に塗る。



久しぶりのデートに心弾ませ、明日の準備をしていく。


デート。

それも、相手はあの人。


上条さんだ。

ずっとずっと憧れていた、あの上条さんだ。



(あぁ、早く明日にならないかな?)


遠足前の小学生みたいだ。

弾む心を抑えられない。

逸る気持ちを止められない。


ワクワクしながら、全てをやり終えた私はベッドの中に潜り込む。



「………。」


楽しみ。

楽しみ過ぎて、眠れない。


どうしよう。

目が覚めてきた………。



浮かれたまま、眠りにつけるはずもなく。

一睡も出来ないまま、私はついに当日の朝を迎えてしまったのだった。



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