社内恋愛のススメ
「よし、完璧!」
鏡の前で、ガッツポーズ。
他の人に見られたら、かなり痛い人だと思われそう。
誰もいないからこそ、出来ること。
1人暮らしの特権だ。
誰もいないマンションの部屋に鍵をかけ、急いで外に出る。
目に飛び込んだ、真っ青な空。
その空の下に見えた、1台の車。
車に寄りかかる様にして、その人は立っていた。
「うわぁ………。」
真っ黒なセダンが、マンションの前に堂々と止められている。
見覚えのないその車は、このマンションの住人のものではない。
その証拠に、ほら、あの人がいる。
私が恋焦がれていたあの人が、車の前にいる。
CMでよく見る外国製のセダンは、とても有名な白と青のエンブレムが付いていて。
車に疎い私にでも分かる様な、高級車。
私がマンションから出て来るのと同時に、伏せていたその人の顔が上がった。
「………!」
上条さんだ。
当たり前だけど、上条さんだ。
上条さんの姿を認識した途端に、すぐこれだ。
キュッと、締め付ける様に心臓が動き出す。
体は正直だ。
きっと心よりも、ずっとずっと正直なんだ。
だから、こんな風に反応してしまうのだ。
今日の上条さんは、白いシャツに細身の黒のパンツ。
飾りっけのない。
至って、シンプルな私服姿。
上条さんらしい。
そう思った。
派手な物は好まない。
使う物も、身に付ける物も。
イメージ通りの彼。
モノトーンが似合うのは、大人の男の人だからなのだろうか。
初めて見る私服。
初めて見る、プライベートの上条さん。
その1つ1つにドキドキする。
きっと、上条さんは違うだろう。
こんな風にドキドキしているのは、私だけなのだろう。
だって、表情1つ変えないから。
いつもと同じ、ポーカーフェイスの彼。
私の前までやって来て、上条さんはこう言った。