社内恋愛のススメ



「あんなビルの群れの中で普通に仕事していたら、こんな景色、滅多にお目にかかれないだろう?」


微かに笑いながら、上条さんがそう言う。

上条さんの低い声が、私の耳に心地良く響く。


怒っている声じゃない。

ゆったりと響くその声が、じんわりと私を侵食していく。



「すっごい綺麗………!」


車の窓に張り付いて、私はただただその景色に魅了される。


心を奪われる景色。

そう表現するのに、相応しい景色。



目に映るこの景色の全てを、脳に焼き付けたい。

記憶に刻んでおきたい。


ずっと忘れないでいられる様に。

いつでも思い出せる様に。


そう意気込む私に、上条さんはこう言ってくれた。



「有沢さんはいつも頑張ってるから、この景色は有沢さんへのご褒美かな?」


上条さんのその言葉に、私の頬が真っ赤に染まっていく。


熱い。

頬だけが、異常に熱い気がする。


上条さんが、私のことをそんな目で見ていてくれたなんて。



上条さんが海外へ転勤になってからも、私は仕事だけは頑張ってきた。


認められたい。

女だからって、バカにされたくない。


寿退社するまでの繋ぎなんだろうって、そう思われたくない。



何より、上条さんのこと。


私にこの会社のことを1から教え込んでくれたのは、上条さんだ。

私が仕事を頑張っていれば、上条さんもバカにされない。


さすがは、上条だって言われる。

上条が教えただけのことはあるって、そう言ってもらえる。



それだけが、この4年間の支えだったから。


女を捨ててでも、仕事を頑張ってきた甲斐があった。

まぁ、女を捨てていたのは、上条さんがいなかった間だけだったけれど。



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