社内恋愛のススメ



「ん………。」


誰かの声で、目を覚ました私。


目を開けて、すぐに飛び込んできたのは上条さんの顔。

大好きな人の顔。



「………!」


眠気だって、一気に覚める。

急速に、脳が覚醒していくのが分かる。


パチッと目を開けて、そして固まる。



寝起きであるはずなのに、寝癖1つ付いていない黒髪。

整った顔。


眼鏡を外した彼の顔は、まだどうにも見慣れない。



ドクン。


あぁ、朝から心臓に悪い。

目の前に上条さんがいるだけで、鼓動が速さを増す。



ドクン、ドクン。


上条さんがいる。

それだけで、胸がいっぱいになる。



(上条さんが、目の前にいる………。)


当たり前といえば、当たり前のことなのだけれど。


これは、非日常。

日常的ではないことだ。



目が覚めてすぐ、上条さんの顔を見れるなんて。


大好きな人。

その顔を、誰よりも先に見ることが出来るなんて。



「………。」


じんわりと広がっていく、温かなもの。


幸せだ。

私、今、すごく幸せだ。



幸せって、こんなにフワフワしているものなのだろうか。

こんなに、夢心地なものなのだろうか。


現実感なんて、全くない。

今でも、まだこの状況が信じられない。



すぐに消えてしまいそう。


この状況も。

この関係も。


触れたらすぐに消えてしまう、しゃぼん玉みたいに思えて。



だけど、離したくない。


やっと掴んだ、上条さんの手。

この手を、離したくない。



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