社内恋愛のススメ



「どうした?」


ギュッとしがみ付いた私を、不思議そうに上条さんが見下ろす。


大好き。

大好きです。


でも、怖いんだ。

幸せ過ぎて、怖い。



この幸せを失った時のことを考えると、怖くて堪らない。


いつか、失う日が来るのだろうか。

上条さんの手を離す日がやって来るのだろうか。


来るかも分からない、そんな日のことを考えて怯えてしまうなんて。



「な、何でもないんです。………ただ、幸せだなと思って。」


そんな日、来なければいい。


ずっとずっと、このまま。

そう思っていたいから。


私はそう言って、抱いた不安を無理矢理掻き消した。







今日は、月曜日。

1週間の始まりの日。


物事が動き出す、そんな日。



このまま、ずっと一緒にいたい。

上条さんと、ずっとずっと。


そう出来たら幸せなのだけれど、そういう訳にもいかない。



だって、私は社会人。

会社で働いている人間の1人。


上条さんだって、同じ。

会社での立場は違えど、社会人として働いていることは同じなのだ。



私情で休めば、他の人に迷惑がかかる。

勝手に休んでしまえば、その分、他の人に負担がかかってしまう。


そのことが分かっているから、私達は惜しみつつも、離れることを選んだ。



「申し訳ないんですけど、マンションまで送ってもらえませんか?出勤前に、着替えたいので………。」


私はそう言って、彼にこの幸せな時間の終わりを告げた。


デートの為に着ていたカジュアルな服では、仕事には行けない。

ちゃんとスーツを着て、会社に行かなければならない。



仕事は、仕事。

プライベートは、プライベート。


公私は分けるべきだと、そう考えているから。



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